桜雨

少し残っていた桜が、今日の雨で散っている。

この春、鉄道で各地を旅して、つくづく実感したのは、ここは「桜の国」だということ。
都会であろうが、田舎であろうが、大げさではなく十秒ごとに新しい桜と巡りあえるのは快感だ。
多いのは、学校や官公庁の敷地と川の土手。
特に周りに何もない場所に桜がたくさんあったので、後で調べると旧陸軍歩兵連隊の跡などということもあった。

鉄道の車窓から風景を眺め疲れて、小さな田舎の駅に着き、その風情が気に入って、途中下車してみる。
コンビニも何もない駅の周りを少し歩くと、例外なく桜の大木に出会える。
車窓から眺める桜の艶っぽさとは違って、下から見上げるとむしろ威風堂々の感がある。

桜の花びらが舞う下を、地元の高校生がチラッと横目で見上げて自転車ですり抜けて行く。
手押し車の老婆が、一旦止まり見上げて納得したかのような笑顔を浮かべて、また手押し車を押して行く。
そんな風景を、ぼんやりと眺めていると、日本人にとって桜は戦前も戦後も特別な存在であったのだなと感ずる。
『平時の桜』も、またいいものだなと想う。

桜雨が止んで、陽光が葉桜を照らし始めれば、もう初夏は近い。